食品表示法において定められる「賞味期限」とは、定められた保存方法を守った状態で「すべての品質特性が十分に保たれていると認められる期限」を指します。傷みやすい食品に付けられる「消費期限(安全に食べられる期限)」とは根本的に異なり、期限が切れた瞬間に食べられなくなるわけではありません。バターは水分含量が約16%前後と極めて低く、細菌が増殖しにくい「水分活性(Aw)が低い食品」に分類されるため、乳製品の中でも突出した保存安定性を誇ります。
大手乳業各社が設定する賞味期限は、製造からおよそ6ヶ月(約180日)程度が一般的ですが、ここには安全係数(通常0.7〜0.8)が掛けられています。理論上、未開封かつ適正温度(10℃以下のチルド環境)で遮光保存されていれば、期限切れから1ヶ月程度であれば風味の劣化も軽微で、調理用はもちろんトーストなどの直接摂取でも問題なく使えるケースがほとんどです。
しかし、経過期間が半年を越えてくると話は変わります。未開封であっても包装紙や銀紙のわずかな隙間から空気中の酸素が浸透し、油脂の自動酸化が進行します。外縁部から徐々に水分が蒸発して乾燥し、カロテノイド色素が濃縮されて黄色みを帯びてきます。半年を過ぎた未開封品は、生食を避けてしっかり火を通す調理へ回すのが防衛ラインとなります。
さらに1年が経過した個体については、外見上カビが生えていなくとも、脂質の加水分解や酸化によって生じる「過酸化脂質」が蓄積している懸念が高まります。過酸化脂質は消化器粘膜を刺激し、嘔吐や下痢といった急性胃腸炎症状を引き起こす要因となるため、1年放置されたバターを口にするのは明確なリスクを伴います。
一方、すでに「開封後」のバターに関しては、期間のカウント基準が完全に崩壊します。カッターや包丁を入れた断面から空気中の浮遊菌や手指の雑菌、パンくずなどの有機物が付着するため、冷蔵庫内であっても数週間で酸化と雑菌繁殖が同時進行します。開封後の安全限界は、賞味期限の残存期間にかかわらず約2週間から最長でも1ヶ月と見なすのが食品衛生上の定説です。