セサミストリートが半世紀以上支持される根源には、表面的な可愛らしさに留まらない、大人の心をも打つ人間関係のリアリズムがあります。その最たる例が、地下のアパートで同居生活を送るバートとアーニーの関係性です。
几帳面でボトルキャップやペーパークリップの収集が趣味、静寂を愛するバートに対し、自由奔放でお風呂のゴムのアヒル(ラバー・ダッキー)を愛し、夜中に突然歌い出すアーニー。性格も生活習慣も完全に真逆な2人ですが、衝突を繰り返しながらも決して決裂することはありません。かつて長年番組の脚本を担当したマーク・サルツマンがインタビューで個人的な見解を語ったことを契機に、ネット上では彼らが同性愛のカップルなのかという議論が巻き起こりました。これに対し、制作元のセサミワークショップは「彼らは親友であり、まったく異なる性格を持つ2人が互いを尊重し、愛着を持って暮らせることを子どもたちに示すために設計されたパペットである」という公式声明を発表しています。性的指向の有無を超え、「他者との違いを認めて共に生きる」という共生の理念を体現しているのです。
また、オスカーがゴミ箱に住む理由も極めて示唆に富んでいます。オスカーは「グラウチ(Grouch=不平屋)」という種族であり、雨の日やゴミ、嫌な出来事をこよなく愛し、誰かが親切にすると腹を立てます。一見すると教育番組にふさわしくないキャラクターに見えますが、ここには「常にポジティブで笑顔でいなければならない」という同調圧力への痛烈なアンチテーゼが込められています。不機嫌でいる権利、他人と違う価値観を持つ権利を肯定し、ストリートの住人たちもオスカーを無理に変えようとせず、「彼はそういうやつだから」と自然にコミュニティの一員として受け入れています。ちなみに公式設定では、外見はただの金属製ゴミ箱ですが、地下内部はプールやボーリング場、農園まで広がる驚くべき豪邸空間となっています。