2016年に勃発したセブン&アイのトップ人事劇は、日本の経済界に巨大な衝撃を与えた。父・鈴木敏文氏の会長辞任に伴い、長男である康弘氏もまたグループを去る決断を下す。世間や一部メディアは一連の動向を「後継者指名を巡る内紛」と書き立てた。
しかし現場の事情を知る関係者の証言を紐解くと、事態はそう単純ではない。康弘氏自身は一貫して「世襲によるトップ就任」を否定し、一技術者・経営者として組織のIT化を進める姿勢を崩していなかった。同族経営という記号で片付けられがちなこの退任劇の裏には、老舗流通企業の構造的軋轢と、急速なデジタル化を巡る内部の温度差が深く横たわっていたのである。