「渋谷音楽堂のチケットを取ったはずが見当たらない」「渋谷音楽堂への行き方が分からない」という問い合わせや投稿は、ネットの知恵袋やSNSで定期的に浮上します。現地を取材および登記・公的文化施設一覧を確認した結果、結論から言えば「渋谷音楽堂」という正式名称を持つ単独のコンサートホールは渋谷区内に存在しません。
では、なぜこの名称がこれほど検索され、語り継がれているのでしょうか。その背景には、渋谷における音楽文化の2大拠点である「渋谷公会堂」の変遷と、「渋谷区文化総合センター大和田」の存在が深く関係しています。
歴史を紐解くと、1964年の東京オリンピック重量挙げ会場として建設され、翌1965年に開館した旧・渋谷公会堂は、長らく日本のポップス・ロック・歌謡曲の殿堂として君臨してきました。数々の伝説的なライブが行われ、音楽ファンからは親しみを込めて「渋公(シブコウ)」と呼ばれてきましたが、日比谷野外音楽堂などの連想から「渋谷の音楽堂」と言い換えて記憶する層が一定数存在しました。
その後、旧公会堂は老朽化に伴い2015年に閉館・建て替えが行われ、2019年秋にLINE CUBE SHIBUYAとして新装開館。ネーミングライツの導入によって「公会堂」の文字が表舞台から後退した一方、2010年に桜丘町に開館した「渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール」が本格的なクラシック音楽・室内楽・合唱に対応する音響空間として定着しました。この2つの象徴的な施設が、ネット上で「渋谷にある音楽堂」として複合的に検索ワード化されたのが、「渋谷音楽堂」という言説の正体です。