搬送直後の絶望的な見立てを覆し、桑名正博さんはそこから104日間に及ぶ驚異的な生命力を示しました。集中治療室(ICU)から一般病室に移って以降も意識が戻ることはありませんでしたが、心臓は力強く鼓動を刻み続けました。
病室には、妻の栄子さんや次男の錬(れん)さん、そして前妻であるアン・ルイスさんとの間に生まれた長男・美勇士(みゅうじ)さんが連日付き添いました。家族や関係者が実践したのは、桑名さんの大好きな音楽を耳元で流し続けることでした。病室のスピーカーからは、自身の代表曲『月のあかり』をはじめ、敬愛していたザ・ビートルズの楽曲、そして元妻・アン・ルイスさんのヒット曲が絶え間なく流されていました。
美勇士さんは当時の会見や手記において、「父の耳元で話しかけたり、音楽を流すと、心拍計の数値が上がったり、涙を流すような反応を見せることがあった。意識はなくとも、絶対に魂は届いていると感じた」と述懐しています。アメリカ・ロサンゼルスに在住していたアン・ルイスさんも、国際電話越しに桑名さんへ必死に語りかけ、かつての伴侶の回復を祈り続けました。
しかし、長い闘病の末、迎えた2012年10月26日午前5時44分、桑名正博さんは静かに息を引き取りました。享年59(命日:10月26日)。直接の死因は「心不全」と発表されました。脳幹出血によって脳機能が失われた状態が続き、最終的に全身の循環動態を支えきれなくなったことによる機能停止でした。最期は美勇士さんら家族の手を握られ、苦しむ様子もなく、まるで眠るような安らかな旅立ちだったと伝えられています。