物語の中盤、突如としてほうきで空を飛べなくなり、魔法の力を失ってしまったキキ。この展開について、宮崎駿監督は当時の制作手記や著書『出発点 1979〜1996』において、非常に示唆に富む言及を残しています。宮崎監督は「キキの魔法は、少女たちが持っている『誰にでもある特技や才能』の象徴にすぎない」と明言しています。
故郷では「魔女の娘」として無邪気に空を飛んでいたキキですが、大都会コリコの街へと移り住み、自分の才能を換金して生活を成り立たせようとした瞬間、純粋な遊びであった飛行は「労働」へと変質しました。さらに、都会的で洗練された同世代の少女たちとの遭遇や、予期せぬ悪天候による荷物の水濡れといった失敗体験が重なり、キキは深刻な劣等感と自信喪失に直面します。
児童心理学および青年期発達理論の観点から見れば、これは典型的なアイデンティティの危機(自己同一性の動揺)です。幼少期の全能感が打ち砕かれ、「自分は何者なのか」「自分の価値とは何か」に激しく悩んだ結果、無意識のうちに自己表現の手段であった魔法がブロックされてしまった状態こそが、あのスランプの正体でした。