全盛期の湯之山館は、どのような空間だったのか。過去に利用した湯治客の入来温泉 湯之山館の評判と口コミや、現地通いの温泉ファンの記録を掘り起こすと、単なる観光温泉旅館とは異なる「生活に密着した湯治文化の温もり」が浮かび上がってきます。
大浴場は、石造りの浴槽の中央に湯口が配置され、一切の加水・加温を行わない熱い湯がドバドバと掛け流されていました。「湯温が44度前後と熱く、最初は足を入れるだけでビリビリしたが、慣れるとこの熱さが癖になる」「浴室に漂う微かな金気臭と土の香りが本物の温泉を感じさせた」といった熱烈な証言が数多く残されています。
また、観光客や家族連れに重宝されたのが入来温泉の日帰り入浴と家族風呂の存在でした。脱衣所と風呂場がコンパクトに直結した貸切の家族風呂は、子ども連れでも気兼ねなく名湯を独占できるプライベート空間として親しまれていました。タイル張りのレトロな湯船に、蛇口をひねれば新鮮な源泉が注ぎ込まれる贅沢な環境は、遠方から通い詰めるリピーターを生む原動力となっていました。
その一方で、口コミの中には「シャンプーや石鹸などのアメニティが常備されていない」「ドライヤーの台数が少なく、混雑時は待たされる」「施設設備が全体的に古く、清潔感を第一に求める人には不向き」といった、公衆浴場ならではの割り切った仕様に対する声も見られました。豪華な温泉リゾートではなく、質素で実直な公衆浴場だったからこそ、愛されると同時に時代の波に抗えなかった側面があります。