日本国内で確認されているスミレ属の野生種は、亜種や変種を含めると100タイプを優に超えます。野外観察で混乱しないためには、まず「生育環境」と「花の構造」で大別して捉える視点が欠かせません。平地から山地で見られる代表的な自生スミレの系統を整理しました。
日本全国の里山や市街地周辺で最も高頻度で遭遇するのが、タチツボスミレの特徴を備えたグループです。淡い紫色の花弁と、根元から立ち上がる茎(有茎構造)を持ち、葉の付け根にある托葉(たくよう)に櫛の歯のような深い切れ込みが入る点がトレードマークとなっています。全国の雑木林の縁や公園の芝生周りに群生します。
一方、市街地のアスファルトの隙間や日当たりの良い土手で競合するように生えるのが、標準和名としての「スミレ(マンジュリカ)」と「ノジスミレ」です。この二者の鑑別は野外観察における最初の難所として知られています。
ノジスミレとスミレの違いは、以下の3つの観察ポイントで判別が可能です。
- 側弁の毛の有無:スミレは花の中心部に向かう左右の側弁基部に白い毛が密生しますが、ノジスミレは原則として無毛(またはごく稀に微毛)です。
- 葉柄の翼(よく):スミレの葉柄には明確な板状のヒレ(翼)が発達しますが、ノジスミレの葉柄には明瞭な翼がありません。
- 芳香の有無:ノジスミレは顔を近づけると独特の甘い芳香を放ちますが、本種スミレの香りはごく控えめです。
さらに山地に足を延ばすと、独特の葉形状を持つ個性派に出会えます。特にエイザンスミレの葉の特徴は際立っており、一般的なスミレに見られるハート形やヘラ形とは異なり、鳥の足のように3つに深く裂け、さらにそれぞれの小葉が羽状に細かく切れ込みます。早春の落葉広葉樹林で、淡いピンクから白紫色の大きな花を咲かせる姿は気品に満ちています。
また、花色によるバリエーションも見逃せません。高山や寒冷地、日本海側の多雪地帯に自生する黄色のスミレの種類としては、鮮やかなレモンイエローが眩しい「キスミレ」、葉が大きく丸みを帯びた「オオバキスミレ」、高山帯の砂礫地に生育する「タカネスミレ」などが代表格です。
清楚な美しさを誇る白花スミレの品種一覧としては、湿り気のある半日陰を好む「シロバナスミレ」、丸い葉と純白の花が愛らしい「マルバスミレ」、葉裏が鮮やかな紫色に染まる「シハイスミレの白花型」、さらには花弁の先端がほんのり桜色に染まる「アケボノスミレ」などがあり、いずれも自生地の土壌湿度や日照条件に繊細に適応しています。