数字の背後にある工場の息遣いを確かめるべく、京浜臨海部の工業地帯を歩くと、教科書の文字面では伝わらない産業構造の変容が肌で感じられます。
神奈川県川崎市から横浜市にかけて広がる京浜工業地帯の沿岸部。かつて黒煙を吐き出していた重工業の象徴的なプラントは、相次いで高炉を休止し、敷地の再開発が進んでいます。地元の製造所関係者は、現場の空気感を次のように吐露します。
「昭和の最盛期には24時間体制で鉄を打ち、町全体に鉄粉と油の匂いが漂っていました。しかし現在、臨海部の広大な土地は、物流倉庫やデータセンター、あるいは水素の実証実験プラントへと急速に看板を架け替えています。モノを大量に作って出荷する場所から、知財や環境技術を研究する実験棟へと役割が変わったのです」(京浜臨海部の重工業メーカーOB社員)
この言葉を裏付けるように、京浜エリアでは工場そのものが地方や海外へ分散した結果、出荷額こそ大きく減少したものの、企業の「本社機能」や「中央研究所(R&D)」が集積する頭脳拠点としての純度はむしろ高まっています。
一方、対照的な熱気を帯びているのが、九州や東北、北海道といった地方都市です。熊本県菊陽町への世界的半導体受託製造(TSMC)の進出、北海道千歳市における次世代半導体Rapidus(ラピダス)の工場建設、三重県四日市市や岩手県北上市のキオクシアによるメモリ増産など、巨額の国家戦略投資が投じられています。
SNSやビジネス掲示板では「かつての工業地帯が衰退し、地方の半導体バブルに沸く街との格差が激しい」「京浜で働いていたエンジニアが地方のメガファブへ転職するケースが増えた」といった生々しい声が飛び交います。伝統的な重化学工業の集積地が成熟と脱炭素の試練に直面する一方で、国家安全保障と直結した特定先端産業の拠点が新たな「工業拠点」として台頭する。現場では今、まさに数十年に一度の地殻変動が進行しています。