ネット上のレシピ情報において最も意見が分かれ、かつ失敗を生みやすい論点が「漬け込みにかける時間」です。「長く漬けるほど味が染みて美味しくなる」という直感的な思い込みから、唐揚げの漬け込みを一晩(8時間以上)行う調理法が散見されますが、これは調理科学の観点からは推奨されません。
下味調味液の塩分濃度は約3%前後に設定されており、鶏肉内部の塩分濃度(約0.9%)よりも高くなっています。そのため、漬け込み初期の15分〜30分間は浸透圧の作用で肉の表面から調味料が浸透しつつ、酒や生姜の作用で保水性が高まります。しかし、漬け込み時間が2時間を超えて一晩に及ぶと、高濃度の塩分によって肉の内部水分が外側のタレへ過剰に浸出(脱水現象)してしまいます。
結果として、翌朝揚げた唐揚げは中心部まで塩分が入りすぎて塩辛くなり、肉汁が抜けてパサついた繊維質の食感に劣化してしまいます。研究機関のテクスチャー測定でも、漬け込み20分〜30分の肉が最も高い保水率(生肉比約88%維持)を示し、一晩置いた肉は保水率が約74%まで低下することが確認されています。最適な唐揚げの漬け込み時間は「室温で20分〜30分」、これが肉汁を閉じ込める絶対のタイムリミットです。