横山大観の画業における最高峰として君臨するのが、大正12年(1923年)に完成した重要文化財『生々流転』だ。現在、東京国立近代美術館に所蔵されているこの大作は、全長40メートルを超える水墨絵巻であり、一滴の水が山間に湧き出し、渓流となり、大河へと広がり、最後は荒れ狂う大海原となって龍を巻き込んで天へと昇る壮大なドラマを描き切っている。
この作品に秘められたドラマは、そのスケールだけに留まらない。大観がこの絵巻を完成させたのは、1923年の院展出品直前。そして出品のまさにその日、関東大震災が発生した。東京中が火の海と化す壊滅的な被害の中、奇跡的に焼失を免れた『生々流転』は、自然の猛威と生命の循環を予見したかのような神がかり的な存在感を放ち、人々を震撼させた。
画面を間近で見つめると、墨一色で描かれているとは到底信じられないほどの湿度と風圧が押し寄せてくる。筆の腹を使った柔らかなぼかしから、かすれを活かした鋭利な水沫の描写まで、水墨画の技術体系を極限まで押し広げた筆致は、近代日本画が到達した一つの頂点といえる。