ビールの世界は大きく大別すると、「上面発酵(エール)」と「下面発酵(ラガー)」の2大ファミリーに分かれます。この二極化の根底にあるのは、麦汁を発酵させる酵母の性質と醸造温度の決定的な差異です。
そもそも、ラガービールの語源と由来は、ドイツ語の「Lagern(ラーゲルン=貯蔵する)」という動詞に遡ります。中世ヨーロッパのバイエルン地方において、夏の腐敗を防ぐために冬の間に醸造したビールを氷の張ったアルプスの洞窟に長期間蓄え、じっくりと安定させた保存方法が原型となりました。
製法面における心臓部が、下面発酵酵母の特徴です。エールで用いられる酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)が15〜25℃の常温付近で発酵し、麦汁の表面に浮かび上がるのに対し、ラガーで活躍する酵母(サッカロマイセス・パストリアヌス)は、わずか約5〜10℃という極めて低い温度域で活動します。発酵の最終段階で酵母がタンクの底に沈降(下面発酵)するためこの名が付けられました。
この低温環境こそが、エール特有のエステル香(フルーティーで華やかなアロマ)の過剰な生成を強力に抑制します。数週間から数か月に及ぶ低温熟成の過程で、硫黄化合物などの不快成分が揮発・分解され、麦汁由来の雑味が極限まで取り除かれます。結果として出来上がるのが、雑味が徹底して削ぎ落とされた、透明感あふれる喉越しと締まりのある後キレです。
また、店頭でよく混同されるピルスナーとラガーの関係ですが、論理的には「すべてのピルスナーはラガーであるが、すべてのラガーがピルスナーではない」という包含関係にあります。ピルスナーは1842年にチェコのピルゼンで誕生した、淡色麦芽とザーツホップを用いた黄金色のラガービールの一種(ビアスタイル)です。ラガーという巨大な枠組みの中に、淡麗辛口なピルスナーをはじめ、コク深い黒褐色の「デュンケル」、ロースト香が際立つ「シュバルツ」、高アルコールの「ボック」など多彩なスタイルが存在しています。