テレビ朝日はかつて、岡本綾子選手が活躍した時代から40年以上にわたり全英女子オープンの生中継を担い、日本のゴルフファンにとって夏の風物詩を形作ってきました。特に2019年の渋野日向子選手優勝時には、最終日の平均視聴率が12.1%、優勝決定直後の早朝時間帯には瞬間最高視聴率42.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を記録し、民放各局を驚嘆させました。
それほどの爆発的なコンテンツパワーを持ちながら、なぜ地上波生中継激減の理由が叫ばれる事態に陥ったのか。その背景には、単なるテレビ離れにとどまらない、構造的な「3つの壁」が存在しています。
第1の壁は、全英女子オープン放送権の経緯に見られる国際的なマネーゲームの過熱と放映権料のインフレです。ゴルフの海外メジャー大会を統括するR&A(ロイヤル・アンド・アンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)は、女子ゴルフの賞金総額を男子並みに引き上げる改革を推し進めました。それに伴い、大会運営費を賄うための放映権料は世界規模で急騰。さらに日本市場を直撃したのが、急激な円安の進行です。ドル建て契約が基本である国際放映権の取得コストは、日本企業にとって実質的に従来の1.5倍から2倍近くに跳ね上がりました。
第2の壁は、地上波の深夜帯広告ビジネスモデルの崩壊です。イギリスと日本の時差は8時間あり、現地の午後から夕方にかけての首位争いは、日本時間では夜22時から翌朝5時前後に該当します。かつては企業の深夜CM出稿枠が潤沢に機能していましたが、景気後退や企業の広告選別により、多額の制作費と高額な放映権料をペイできるだけのスポンサー料を民放キー局が単独で集めることは不可能に近くなりました。
第3の壁が、巨大資本を投入する動画配信プラットフォームの台頭です。従来の民放のように「CM枠を売って回収する」モデルではなく、「月額課金会員(サブスクライバー)の獲得と定着」を目的とするストリーミング事業者がスポーツ放映権の争奪戦に名乗りを上げました。民放が採算割れを恐れて二の足を踏むなか、U-NEXTのようなデジタルプラットフォームが高額な包括契約を一括して勝ち取る構造が確立したのです。結果として、テレビ朝日全英女子オープンの生中継枠は大幅に縮小され、地上波から姿を消すことになりました。