私たちが耳を傾ける「リーン、リーン」という音は、単なるBGMではない。それは雄が生命を懸けて繰り広げるコミュニケーションのメッセージだ。
鈴虫の雄は、右の羽の裏側にある「やすり状の突起」を左の羽の「摩擦粉」に激しく擦り合わせることで音を生み出す。その音色には明確なバリエーションが存在する。遠くの雌を呼び寄せるための透き通った「本鳴き(招き鳴き)」、雌が接近した際に音量を落として優しく奏でる「求愛鳴き」、そして他の雄と遭遇した際にテンポを早めて威嚇する「立ち鳴き」だ。夜の草むらで聞こえるテンポや強弱の変化に注目すると、そこには熾烈な恋の駆け引きと縄張り争いのドラマが浮かび上がってくる。