ピルを取り巻く環境の中で、近年特に懸念されているのが「オンライン処方の普及に伴う管理体制の形骸化」と「休薬期間中の体調不良に対する誤解」です。
自宅にいながら数分のチャットやビデオ通話でピルが届く利便性は革命的である一方、血圧測定や定期的な採血検査を怠ったまま漫然と何年も服用を継続してしまうユーザーを生み出しています。先述の8年目入院の体験談にもあるように、対面診療であれば医師が下肢のわずかな浮腫みや血圧の急上昇に気づけた可能性を、画面越しの自己申告が見逃してしまうケースが少なくありません。
また、多くの女性を悩ませるのがピルの休薬期間における頭痛と血栓症の判別です。休薬期間中(プラセボ錠の内服期間)は、体内のエストロゲン濃度が急激に低下するため、「消退出血に伴う片頭痛」が頻発します。多くの人はこれを「いつもの生理痛や低気圧のせい」と我慢してしまいますが、もしその頭痛が「これまでに経験したことがない激痛」「締め付けられるような持続性の痛み」「目の前がチカチカする視野異常(閃輝暗点)」を伴っている場合、脳静脈洞血栓症などの頭蓋内病変を疑う必要があります。
体調不良を安易に「ピルの慣れやホルモンバランスの波」で片付けず、危険なシグナルを正しく切り分ける知識が求められます。