一般的な英和辞典を開くと、最初に出てくる訳語は確かに「貧しい」「貧困な」です。しかし、英語圏の日常会話においてこの単語が発せられるとき、経済的な困窮を指している割合はそれほど高くありません。
たとえば「He is a poor driver.」と言った場合、彼の銀行口座に残高がないという意味ではありません。「運転が下手」「技術が乏しい」という意味になります。同様に「poor health」は「健康状態が優れない(不調である)」、「poor quality」は「粗悪な品質」を表します。つまり、この単語の本質は「何かが基準に達していない」「欠乏している」という状態です。
さらに重要なのが、感情を込めて使われる「かわいそう」「哀れな」というニュアンスです。「Oh, poor thing!」という表現は、怪我をしたペットや不運に見舞われた友人に対して深い同情と愛着を込めて使われます。これを「貧しいもの」と訳してしまうと、会話の温度感は完全に崩壊してしまいます。文脈によって感情のベクトルが大きく変化することこそ、この単語の最大の落とし穴と言えます。