多くの映画監督や共演者が口を揃えるのは、妻夫木聡が持つ「役柄の人生を完全に生き切る徹底性」と「相手の芝居を100%受け止める柔軟性」です。
日本映画界における演技のアプローチには、劇的な台詞回しや感情表現を前面に出す「足し算の演技」と、登場人物の沈黙や佇まいで内面を語る「引き算の演技」が存在します。妻夫木聡はその変遷において、極めて高度な「引き算」の領域へとシフトしてきました。
特に映画監督・李相日との長年にわたる協働はその象徴です。過酷なリアリズムを追求する現場において、彼は自らのパブリックイメージであった「好青年」を完全に解体。役作りのために金髪に染め、現場に入る前から共演者と私生活レベルで距離を詰める、あるいは孤立を選ぶなど、憑依的ともいえる役へのアプローチを敢行してきました。
映画関係者の証言によると、妻夫木聡は「自分がどう映るか」ではなく「その空間で物語がどう呼吸しているか」を最優先にする稀有な俳優であると評されます。画面中央で派手に主張するのではなく、周囲の登場人物たちの感情の波を受け止めることでシーン全体の密度を高める。この「受けの美学」こそが、作品全体のクオリティを押し上げる原動力となっています。