母乳が優れた栄養源であることは言わずと知れた事実だが、現代の育児・小児医学が着目しているのは、授乳という行為そのものが引き起こす動的な生体反応だ。
乳児が母乳を吸引する際、乳頭を通じて赤ちゃんの唾液が母親の乳頭組織内に微量微圧で流れ込む「バックウォッシュ現象」が起きる。母親の身体はこの唾液に含まれる病原体情報を察知し、わずか数時間のうちに必要な特異的抗体を作り出して母乳中に分泌する。日本小児科学会でも議論されるこうした双方向の免疫フィードバックは、人工乳では決して代替できない生きた防御システムと言える。
また、アタッチメント親密育児の提唱者として知られる小児科医ウィリアム・シアーズ博士は、授乳時の肌と肌の接触、視線の交わし合いが親子双方のオキシトシン分泌を爆発的に高め、乳児のストレス耐性に関わる脳神経系を育むと主張してきた。近年の脳画像研究も、この皮膚感覚刺激が初期の発達に与える肯定的なインパクトを裏付けている。