「正直、あの夜は審査員席で心臓が口から出そうでしたよ」。終演後、匿名を条件に取材に応じたベテラン審査員の一人は、深くため息をつきながらそう明かした。お笑い賞レースの中でも、本大会の審査基準は極めて複雑だ。なぜなら、笑いのジャンルがまったく異なる表現者が直接対決するからである。
「漫才のテンポ感とコントの情景描写力を同じ尺で比較するのは、リンゴとゴリラのどちらが優れているかを判定するようなもの。審査員の頭の中では、笑いの数、世界観の完成度、そして何より『その日、その瞬間の爆発力』が秒単位で計算されている」。特に物議を醸したある年の決定戦では、審査員同士の票が割れ、最後の1票が開かれるまで誰も勝者が分からない緊迫した事態となった。テレビの画面越しには見えない、審査員たちの汗と逡巡。0.5点の差を生んだのは、技術の優劣ではなく、土壇場で魅せた「舞台への覚悟」だったという。