鳴り物入りで登場した女性用小便器ですが、1964年の東京五輪をピークに需要は急速に縮小し、1971(昭和46)年には製造中止へと追い込まれました。華々しいデビューを飾りながら、なぜこれほど短期間で市場から姿を消すことになったのか。そこには設計思想とユーザーの実態との間に生じた、決定的な3つの乖離がありました。
第一の理由は、「中腰姿勢」による身体的負担と失敗への恐怖です。サニスタンドは便座に直接腰掛けず、浮かせる形で用を足す構造になっていました。しかし、この体勢を維持するには一定の筋力が必要であり、バランスを崩して衣服を汚してしまうリスクが常に付きまといました。
第二の理由は、当時の女性のファッションおよび下着文化の変遷です。発売当初に着物文化が残っていた時代には「裾を軽くまくるだけで使える」という利点が見出されていましたが、洋服文化が完全に定着し、パンティストッキングやガードルが普及すると状況は一変しました。下半身の下着を完全に下ろさなければならない洋服では、立ち小便器の「手軽さ」という最大のメリットが失われてしまったのです。
そして第三の、もっとも心理的な要因となったのが「羞恥心と個室空間へのこだわり」です。男性用トイレのように並んで用を足すスタイルへの抵抗感は根強く、たとえ個室内に設置されたとしても、「立ち小便」という行為そのものに対する心理的ハードルを払拭できませんでした。結果として多くの女性が従来の和式・洋式個室を選び、サニスタンドは敬遠されていきました。