日本海側に位置する山陰地方において、正月料理の主役に甘いあずきを用いる風習は長年謎とされてきた。鳥取県や島根県の沿岸部を中心に広がるこの文化は、古代からの製塩業や北前船の寄港地として栄えた歴史と密接に関わっている。当時、砂糖や小豆は非常に貴重な品であり、一年の始まりである正月にそれらを贅沢に味わうこと自体が、最高級の祝宴を意味していた。
厳しい冬の寒さを乗り越えるための貴重なエネルギー源であったことも見逃せない。山陰の冬風のなかで、温かい煮小豆に力強い餅を合わせた郷土料理は、人々の心と身体をじんわりと温めてきた。単なる嗜好品ではなく、厳しい自然とともに生きてきた先人たちの知恵が詰まった特別な一品なのだ。