なぜこの惨劇の連鎖は止まらないのか。その要因を単なる「個人の意志の弱さ」として切って捨てることはできない。
第一に、ヒップホップという表現形式が抱える「リアル」への強迫観念が挙げられる。フィクションを演じるポップスとは異なり、ラッパーは自らの生き様や過酷な環境をありのまま吐露することでレペゼン(代表)の資格を得る。地元やストリートの人間関係、過去の非合法なコミュニティとの繋がりを断ち切ることは、彼らにとって自らのアイデンティティやリリックの威力を自ら削ぎ落とす行為に等しい。商業的な成功を収めた後も、かつての仲間との関係を切ることができず、違法物質の調達ルートとして利用され続ける構図が後を絶たない。
第二に、過酷な制作プロセスがもたらす精神的プレッシャーだ。夜を徹したトラックメイク、極限状態でのリリック執筆。インスピレーションを絞り出す修羅場において、集中力の維持や疲労困憊からの脱却を狙い、違法物質を「作業用ツール」として頼ってしまう危険な依存のループが存在する。業界内部では知らぬ者のないオープンシークレットとして、特定の供給源やブローカーの存在が長い間囁かれ続けているのだ。