なぜ支えている足とは反対側の骨盤が下がってしまうのか。その答えは、股関節を支点とする「第1種てこ」のバイオメカニクスにあります。
ヒトが両足で立っているとき、骨盤は左右均等に支えられています。しかし、右足を浮かせて左足の片足立ちになると、身体の全重量(遊脚側の足を含む体重の約80〜85%)が左股関節より内側に位置する重心線へと集中します。この重力は、骨盤を右側(浮かせている側)へと引き下げようとする強烈な「股関節内転モーメント」として作用します。
この重力に対抗し、骨盤を水平に保持する唯一の拮抗筋が、支持脚側(患側)の中殿筋(特に前〜中部線維)および小殿筋です。大腿骨頭を中心としたレバーアームの比率を見ると、大腿骨頭から身体重心までの距離(約10〜12cm)に対し、大腿骨頭から大転子(中殿筋の付着部)までの距離はわずか5cm程度しかありません。つまり、構造上2倍以上のハンディキャップを背負っていることになります。
バイオメカニクスの計算上、骨盤の水平を維持するためには、支持側の中殿筋に体重の約2.5〜3倍(3W)に相当する張力が一瞬で要求されます。支持側の股関節外転筋群に筋力低下、麻痺、あるいは関節構造の破綻があると、この強大な力に耐えきれず、浮かせた側(健側・遊脚側)の骨盤が下制します。これがトレンデレンブルグ徴候の発生機序です。
最も間違いやすいのが「健側と患側の見分け方」です。骨盤が下がっている側が悪いと直感的に錯覚しがちですが、「骨盤が下がっている側=健側(遊脚側)」であり、「それを支えきれずに破綻している支持脚側=患側(立脚側)」です。観察側の下肢立脚相において対側の骨盤が沈下するという原則を正しく把握することが不可欠です。