音を科学として解明するはるか以前から、日本人はこの虫の音に独特の感性を注ぎ込んできた。明治期に訪日し、日本の美意識を世界に紹介した文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、日本人が竹籠に虫を飼い、その鳴き声を「音楽」として愛でる文化に深い驚きと敬意を表現している。西洋において昆虫の音が多くの場合「ノイズ」として処理されていた時代に、東洋の島国では虫の音を右脳ではなく左脳の言語野で処理し、歌として聴き入っていた。
こうした特有の音覚文化は、環境省が選定した「日本の音風景100選」にも脈々と受け継がれている。各地の寺社境内や里山で守られてきた音響環境は、単なる環境保全にとどまらず、日本人の感性や精神的景観を守る貴重な文化遺産として評価されている。