『夜明けと蛍』がリリースされた当時、n-bunaは10代後半から20代前半へと差し掛かる過渡期にありました。当時の音楽雑誌インタビューやWebメディアの対談において、本人は「夏の終わり特有の寂寥感」や「少年期の終わり」に対する執着を度々語っています。岐阜県の豊かな自然と静謐な情景のなかで育まれたn-buna特有の文学的感性は、この楽曲で一つの頂点を迎えました。
本作の持つ哀愁の深さを語る上で欠かせないのが、「初音ミク原曲」と「n-bunaセルフカバー版」のアプローチの違いです。
初音ミクの歌声は、感情を過剰に押し付けず、どこか客観的で冷涼な響きを持っています。このボーカル処理の透明感があるからこそ、リスナーは自分自身の境遇や後悔をメロディに投影し、個人的な追憶として受け止めることができました。一方で、後に公開されたn-buna本人のセルフカバー版では、息遣いや声の擦れ、言葉を絞り出すような生々しさが前面に出ており、作者本人のパーソナルな痛みが生々しく胸を打ちます。
2016年リリースの2ndフルアルバム『月を歩いている』において、本作は童話や文学作品をモチーフにしたアルバム全体の精神的支柱として再定義されました。単なるボカロのヒットチューンにとどまらず、純文学的な完成度を持つ作品として評価が定着した瞬間でした。