フィクションの世界においても、「据わった目」は人間の内面にある異常性や狂気を表現する象徴的なデバイスとして使われてきた。
金字塔的映画『羊たちの沈黙』でアンソニー・ホプキンスが演じたハンニバル・レクター博士は、その最たる例だろう。彼が画面越しに見せる一切瞬きをしない冷徹な眼光は、映画史に残るサイコサスペンスの恐怖を決定づけた。レクター博士の視線は、相手を人間ではなく「観察対象」あるいは「獲物」として捉えていることを無言のうちに雄弁に物語っていた。
この演出手法は現代のエンタメ領域でも色褪せることはない。最新のNetflixオリジナルドラマや実録犯罪ドキュメンタリーにおいても、不気味な人物像や精神的に追い詰められたキャラクターを描く際、カメラは人物の「据わった視線」をクロースアップで捉える。視聴者はその視線を通して、登場人物の異様な執着心や精神の歪みを直感的に理解する。