冒頭の背景美術において特筆すべきは、日本の伝統的な水墨画を思わせる独特のタッチだ。画面全体を支配する深緑と漆黒のコントラストは、人間が踏み込むことを許されない神聖な森の雰囲気を苛烈に表現している。明るくポップな色彩が主流だった当時のアニメーションとは一線を画す、圧倒的な重圧感である。
スタジオジブリのスタッフは、太古の自然の美しさと恐ろしさを同時に表現するため、何度もロケハンを重ねたという。屋久島の原生林で得たインスピレーションが、この数分間の映像に緻密に凝縮されている。暗闇から立ち上る霧の描写ひとつとっても、手描きアニメーションの極限とも言える職人技が凝縮されているのだ。