エボシ御前の本質を理解するうえで欠かせないのが、彼女が持つ圧倒的な二面性です。彼女は深山幽谷の森を切り拓いて鉄を精製する製鉄集団「タタラ場」を統率し、神々の住まう原生林を焼き払うことも厭わない強硬な現実主義者として描かれます。
一方で、当時の社会構造では人身売買の対象となっていた女性たちを身請けして職を与え、当時の差別対象であった不治の病に苦しむ人々に対しても偏見なく居住地と役割を提供しました。タタラ場の住民にとって、エボシは過酷な運命から救い出してくれた唯一無二の救世主であり、命を捧げるに値するカリスマ指導者でした。
森の神々やサンから見れば「許されざる破壊者」であり、タタラ場の民から見れば「慈愛に満ちた守護者」であるというこの構造こそが、観る者に強烈な葛藤と余韻を植え付ける要因となっています。