「正しくセットしたつもりなのに上手く巻けない」という場合、目視では見落としがちな物理的エラーが発生しています。ソーイング現場や修理受付で報告される代表的な不具合とそのメカニズムを解説します。
第一の現象は、「下糸が均等に巻けず、上や下に偏ってしまう(台形巻き・そろばん玉巻き)」トラブルです。この主な原因は、糸案内の高さとボビンの高さの不一致にあります。糸案内のネジが緩んで上下にズレていたり、糸が案内の金属板の底まで入っていなかったりすると、糸が斜めの角度からボビンへ供給されるため、偏って巻き上がります。下糸巻き案内に高さ調整用のマイナスネジが付いている機種の場合、糸が上に偏るならネジを少し締め(案内を下げる)、下に偏るなら少し緩めることで位置を微調整できます。
第二の現象は、「ボビンの糸がフワフワと緩い(軟巻き)」トラブルです。指で押したときにボビン上の糸がペコペコと沈む状態は完全な失敗です。このまま下糸としてミシンにセットすると、縫製の途中で上糸に引っ張られた際に複数の糸輪が一気に引き出され、釜の中で鳥の巣状に絡み合ってミシンが停止します。対処法は極めて明確で、糸案内テンション皿への掛け直しです。糸の両端を両手で持ち、ピンと張った状態で皿の奥まで押し込む感触を確かめてください。
第三の現象は、「下糸巻き軸が途中で止まる・空回りして回らない」トラブルです。スタートボタンを押してもモーター音だけが響いてボビンが回転しない場合、ボビンが軸の底まで完全に押し込まれていないか、下糸巻き軸に過去に千切れた糸くずが巻き付いて回転を物理的に阻害しているケースが大半です。軸の根元に糸が巻き込まれている場合は、ピンセットや目打ちを使って慎重に除去する必要があります。