蟹江敬三の演劇的ルーツは、1960年代後半の熱狂に包まれたアングラ演劇にある。唐十郎が旗揚げした伝説の「劇団状況劇場」——通称・紅テント。既成の演劇概念を打ち破る前衛的な舞台で、彼は体を張った過激なパフォーマンスを繰り広げ、演劇界にその名を轟かせた。
当時のアングラ劇団の生活は困窮そのものだった。明日食べるものにも事欠く下積み時代、稽古場と舞台にすべての情熱を注ぎ込む蟹江を支えたのが妻の存在だ。生活の不安や世間の常識に囚われることなく、表現者としての狂気を誰よりも理解し、無条件で受け止めた。この黎明期の苦楽が、二人の揺るぎない信頼の礎となった。