『吾亦紅』という楽曲が放つ尋常ではない説得力の根源は、制作陣の個人的な痛恨の体験にあります。この歌の作詞を手がけたのは、『ルビーの指環』や『仮面舞踏会』など数々の名曲を世に送り出した希代の作詞家、ちあき哲也です。
当時の音楽関係者や特番インタビューでの証言によると、ちあきは母が他界した際、深い悲嘆に暮れる中で「親孝行らしい親孝行を何一つしてやれなかった」という激しい自責の念に苛まれていました。その個人的な告白と贖罪の思いをありのままに書き留めた歌詞が、旧知の仲であったすぎもとまさとの元へ持ち込まれたのがすべての始まりです。
すぎもと自身もまた、若き日に音楽の道を志して上京し、苦労をかけ続けた母をすでに亡くしていました。ちあきから手渡された詞を見た瞬間、すぎもとは「これは自分の歌でもある」と直感し、ピアノに向かってわずか数十分でメロディを紡ぎ出したと語られています。商業的なヒットを狙った企画ではなく、クリエイター二人が亡き母へ捧げた剥き出しの懺悔だったからこそ、聴く者の胸を強く打つエネルギーが宿ったのです。