カメラの前で見せる狂気や圧倒的な眼力とは対照的に、自宅での渡瀬恒彦は驚くほど穏やかな家庭人だったという。愛妻が作る手料理を何よりの楽しみとし、休日には庭仕事や愛犬の散歩を静かに楽しむ姿があった。
晩年、胆管がんという酷烈な病魔と闘いながらも仕事を全うできた背景には、常に寄り添い、体調管理から精神的ケアまでを完璧にこなした妻の献身があった。現場では病の苦痛を一切見せず、家に帰れば愛妻の温もりに包まれて静かに英気を養う。この二重構造こそが、彼が死の直前まで一線級の役者としてカメラの前に立ち続けられた最大の秘密であった。