身体の性と心の性が一致しないトランスジェンダー男性(FTM)にとって、毎月訪れる生理は単なる身体的苦痛にとどまらない。それは、自身のアイデンティティと身体構造のギャップを突きつけられる、深刻な精神的試練でもある。トランスジェンダー当事者として発信を続ける杉山文野氏は、かつて自身が経験した葛藤について「男性として生活していても、毎月の出血によって身体が否応なく現実を突きつけてくる。個室トイレに入るたびに激しい恐怖と孤独感に襲われていた」と振り返る。
男性ホルモン治療を開始すると排卵や月経は停止することが多いが、治療を行っていない期間や体質、あるいは医療アクセスの有無によって、毎月生理を経験する男性は確実に存在する。男性用トイレにはサニタリーボックス(生理用品廃棄箱)が設置されていない場所が依然として多く、使用済みのナプキンをどう処理すべきかという切実な問題も日常的に発生している。従来メディアがなかなか光をあててこなかったこうした事実は、単なる知識の不足ではなく、社会インフラそのものが特定の性別役割分担を前提に作られてきたことを浮き彫りにしている。