彼の最晩年の代表作となったのが、是枝裕和監督の『そして父になる』である。福山雅治演じる主人公の父親役として出演した夏八木さんは、頑固で、どこか不器用な昭和の父親を熱演した。この撮影時、すでに彼の体はがんによって蝕まれていたのだ。画面越しに見せるあの鋭い眼光と、説得力のある佇まいは、死を覚悟した男の「最後の輝き」だったのかもしれない。
是枝監督も後に、夏八木さんの体調について「何かおかしい」とは感じつつも、本人が一切それを言い訳にしないため、通常通りに演出を行ったと振り返っている。役者としてのプライドが、病気という現実を現場に持ち込むことを許さなかったのだ。スクリーンに刻まれた彼の姿は、まさに命を削って生み出された芸術そのものだった。