近年、Netflixをはじめとする動画配信プラットフォームが世界中で普及し、日本芸能界のコンテンツ制作や消費スピードは劇的な変化を遂げている。短尺動画やデジタルエフェクトを駆使したエンターテインメントが溢れる現代において、マイク一本、生身の肉体だけで勝負する「上方漫才」の存在意義はどこにあるのか。
里見はこの時代の潮流を極めて冷静に見つめている。最新の配信カルチャーが世界基準の洗練されたコメディを届ける一方で、彼が信じるのは「劇場の客席に漂う空気の湿り気」だ。観客のわずかな息遣い、笑いの波が引く瞬間の沈黙、咳払い一つで変わる劇場の温度。それらすべてを察知し、0.1秒単位でツッコミのタイミングをずらす職人技は、いかなる高精細なアルゴリズムでも再現することはできない。
吉本興業の歴史とともに歩んできた彼が体現するのは、消費されて消えていく流行ではなく、時代を超えて生き残る「話芸の骨格」そのものである。