二人の物語の幕が上がったのは1992年秋、フランス北部アミアンにある名門イエズス会系私立学校「リセ・ラ・プロヴィダンス」でした。当時、ブリジット・トロニョ(旧姓)はフランス文学とラテン語を教え、演劇部の顧問を担当する39歳の既婚女性であり、3人の子供の母親でした。一方のエマニュエル・マクロンは、ずば抜けた知性と読書量を誇る15歳の生徒として校内で知られる存在でした。
決定的な契機となったのは、1993年、エマニュエルが所属した演劇部での活動です。イタリアの劇作家エドゥアルド・デ・フィリッポの戯曲『喜劇の技法』を翻案・上演するプロジェクトにおいて、二人は毎週金曜日に顔を合わせ、脚本の共同執筆を行いました。後にブリジット夫人は当時の特番インタビューや回想録で、「彼の並外れた知性に完全に圧倒された」「単なる生徒と教師の関係ではなく、対等な知性の持ち主として魅了されていった」と率直に告白しています。
当時の同級生や関係者の証言によると、放課後の教室で文学や哲学について熱烈に語り合う二人の間には、すでに周囲が立ち入れない独特の精神的連帯が生まれていました。単なる肉体的な惹かれ合いではなく、徹底的な知的好奇心の共鳴こそが、24歳差の恋の着火点だったのです。