藤井氏が社長に就任した1995年当時、龍角散はバブル崩壊の余波と時代の変化に取り残され、深刻な経営危機に瀕していました。売上高約40億円に対して約40億円の有利子負債を抱え、主力商品である散剤(粉末)の龍角散は「お年寄りの薬」として若年層からの需要が激減していたのです。
そこで藤井社長が断行したのが、徹底した「選択と集中」による経営改革でした。不採算だった家庭薬やドリンク剤などの多角化事業から勇気を持って撤退し、会社のコアバリューである「喉・呼吸器」領域へ経営資源を全集中させました。
この大改革の象徴となったのが、世界初となる「服薬ゼリー(らくらく服薬ゼリー)」の開発です。医療や介護の現場で、高齢者や子どもが粉薬や錠剤を喉に詰まらせて誤嚥を起こすリスクに藤井社長自らが着目。「薬を水で飲むのが困難な人のために、喉をつるんと通る専用ゼリーを作る」という逆転の発想から研究をスタートさせました。
当初は社内や薬業界から「水があるのにゼリーで薬を飲むわけがない」と猛反発を受けましたが、粘り強く改良を重ねて製品化に成功。介護現場や小児科から絶大な支持を集め、現在では医療・福祉に欠かせない巨大な新市場を創出しました。さらに、携帯しやすい水なし服用タイプの「龍角散ダイレクト」や「龍角散ののどすっきり飴」などの大ヒットも重なり、同社は見事なV字回復を達成しました。