オーディションの場に現れた彼は、決して肩肘を張っていなかった。自然体。どこか冷めた目つきと、内に秘めた熱量。監督を務めた巨匠クリント・イーストウッドは、彼のビデオテープを一目見た瞬間に「この男だ」と確信したという。当初予定されていた役柄のイメージを覆し、脚本そのものを書き換えて彼のために新たな息吹を吹き込んだエピソードは、今やハリウッドの伝説となっている。
「自分は俳優ではない」と本人は謙遜気味に語る。だが、カメラが回った瞬間に見せる佇まいは本物だった。泥にまみれ、死の恐怖に怯えながらも、ただ生きて妻の元へ帰りたいと願う平民兵士・西郷。その等身大の恐怖と切なさは、言葉の壁を越えてアメリカの制作陣を息をのませた。