自らのリソース(時間・体力・金銭)を他者に分け与える行為は、自然淘汰のルールに反するように思えます。それでも人類が利他性を備えている背景には、利他行動の進化論における合理的な生存戦略が存在します。
進化生物学において注目されるのが互恵的利他行動(Reciprocal Altruism)のメカニズムです。「今は自分が助け、将来自分が困ったときには助けられる」という信頼関係を構築できた集団は、個体が孤立して生きる集団よりも飢餓や外敵の脅威を乗り越える確率が格段に高まりました。助け合いの遺伝的・文化的な傾向が、集団全体の生存率を引き上げてきた背景があります。
また、利他行動の心理学の領域では、共感性(Empathy)が行動の強力なトリガーであることが証明されています。他者の苦痛を認知した際、脳のペインマトリクス(痛みを処理する神経回路)が刺激され、自らの不快感を低減させると同時に相手を救済しようとする衝動が立ち上がります。見返りを計算する前に「体が動く」背景には、数万年かけて洗練された生存のための情動システムが働いています。