「きぬかつぎ」という言葉を聞いて、スーパーの野菜売り場で並ぶ特定の「サツマイモやジャガイモのような新種の芋」を思い浮かべる人がいますが、これは料理の名前です。日本の食文化辞典や農林水産省の地域特産物資料にもある通り、一般的には「里芋の小芋(孫芋など)を皮付きのまま加熱調理した料理」を指します。
では、煮物などに使われる一般的な里芋と、きぬかつぎに使われる里芋にはどのような違いがあるのでしょうか。その決定的な差は、芋の品種と収穫される部位・サイズにあります。
通常の煮物に使われる里芋は「土垂(どだれ)」などの品種が多く、比較的しっかりとした肉質で煮崩れしにくいものが選ばれます。一方、きぬかつぎに最も適しているとされるのが「石川早生(いしかわわせ)」という品種です。大阪府の石川村(現・河南町)が発祥とされるこの品種は、きめ細やかな肉質と滑らかなぬめり、そして上品な甘みが特徴で、親芋から分かれてできたばかりの小さく柔らかな「小芋」や「孫芋」がきぬかつぎ用として選別・出荷されます。
普段の煮物用としてスーパーに並ぶ大ぶりの里芋をそのまま蒸しても、皮が硬く繊維が粗いため、きぬかつぎ特有の「つるんとした口当たり」は再現できません。きぬかつぎとは、「旬の柔らかな新小芋を、最もシンプルかつ贅沢に味わうための専用調理法」と捉えるのが正確です。