患者が「抗がん剤なのに副作用がない」と感じる代表的な症状が、脱毛の欠如や吐き気の消失です。これらには薬剤の作用機序の違いが深く関わっています。
抗がん剤と一口に言っても、多種多様な薬剤が存在します。乳がんや胃がんで多用されるタキサン系(パクリタキセル等)やアントラサイクリン系薬剤は高頻度で毛根細胞に作用するため著しい脱毛を引き起こしますが、大腸がんや膵臓がんなどで使われる代謝拮抗薬(5-FU系やカペシタビン等)では、髪の毛がほとんど抜けないケースも珍しくありません。
また、特定のがん遺伝子やタンパク質を狙い撃ちにする分子標的薬の台頭も大きな転換点です。分子標的薬は正常な細胞を無差別に攻撃しないため、従来の抗がん剤に見られた激しい嘔気や全頭脱毛を伴わないケースが主流です。その代わり、皮膚の皮疹や下痢、高血圧といった特有の症状が現れる特徴を持ちます。
吐き気に関しても、脳の嘔吐中枢を刺激する物質をブロックする「NK1受容体拮抗薬」「5-HT3受容体拮抗薬」「ステロイド薬」の3剤併用療法が確立されたことで、強い悪心・嘔吐をゼロに近い水準までコントロールできる時代になっています。吐き気がないことは、異常事態ではなく現代医療の恩恵です。