帝の強烈なビジュアルを補完し、確固たるものにしたのが、声を担当した歌舞伎俳優・中村七之助による絶妙な芝居だ。プレスコ(セリフを先行して録音し、その声に合わせて絵を描く手法)が採用された本作において、中村七之助が発する気品とどこか浮世離れした滑稽さを孕んだ演技は、アニメーターたちに計り知れないインスピレーションを与えた。
かぐや姫を背後から突然抱きすくめ、「私がこうすることが、そなたの幸せなのだ」と自惚れ全開で囁くシーンでは、帝の傲慢さと自我の歪みが最高潮に達する。甘い声のトーンと、画面上で主張し続けるシャープなあごの動きが見事に合致し、観る者に強烈な威圧感と失笑を同時に抱かせる名場面へと結実した。