劇中終盤、物語の緊張感を最高潮に高めるのが「草壁メイの失踪」という展開だ。インターネット上では長年にわたり都市伝説的な噂が囁かれてきたが、スタジオジブリの制作資料や関係者の証言を紐解くと、まったく異なる表現上の必然性が浮かび上がる。
彼女が迷子になった最大の理由は、病気の母親に届けたい「トウモロコシ」を抱え、幼い子ども特有の「歩幅と視野の狭さ」によって自らの居場所を見失う過程をリアルに表現するためだった。監督の宮崎駿は、大人の都合や論理で動かない子どもの行動原理を画面上に徹底再現することに拘泥した。迷子事件は恐怖を煽る演出ではなく、幼少期の誰もが体験する「世界との分離と孤立」を鮮烈に描くためのクライマックスだったのである。