九龍城砦の解体が本格化した1990年代初頭、「重機で建物を破壊した瞬間、推計数十万匹から数百万匹の巨大ネズミが周辺の市街地や住宅街へ一斉になだれ込む」というショッキングな噂が香港市民の間を駆け巡りました。これが現在も語り継がれる「九龍城ネズミ大脱走」の都市伝説です。
結論から明かすと、市街地がネズミの大群に占拠されるようなパニック映画さながらの事態は実際には発生しませんでした。しかし、この噂は単なる根も葉もないデマではなく、当時極めて現実味を帯びた危機として香港政庁(現・香港政府)を震撼させていた背景があります。
長年にわたり治外法権状態だった城砦内には、不法投棄された生ゴミや排水が蓄積し、害獣にとって理想的な繁殖環境が完成していました。放置したまま壁を崩せば、住処を失ったネズミが周囲へ拡散することは明白だったため、当局は解体工事の着工前に厳重な防除・駆除計画を水面下で完遂させていたのです。