庭に足を踏み入れると、まず耳に届くのは水音だ。琵琶湖疏水から引き込まれた水流が、池を巡り、苔むした岩を濡らしていく。七代目小川治兵衛が手掛けた池泉回遊式庭園は、東山の山並みを巧みに背景へと取り込む借景の手法で造られている。
建築を担当したのは、当時の第一線で活躍した名工たちだ。繊細な杉皮葺きの屋根、柱の選定から畳の目数に至るまで、細部に宿るこだわりには一切の妥協がない。数寄屋建築の持つ柔軟さと、茶道具や古美術を愛した徳七の美的感覚が凝縮されている。西洋の合理主義が日本に浸透し始めた大正から昭和初期にあって、日本人の美意識のアイデンティティを極限まで高めた空間設計と言えるだろう。