彼のキャリアを語る上で欠かせない転機といえば、第153回芥川龍之介賞の受賞だろう。公益財団法人日本文学振興会が主催する同賞において、介護を担う若者の尊厳と鬱屈を描いた『スクラップ・アンド・ビルド』は、選考委員から満場一致に近い称賛を浴びた。株式会社文藝春秋から刊行された同作は、単なる社会派小説の域を超え、現代人が抱える虚無感を容赦なく炙り出した名作である。
デビュー作である『黒冷水』の時代から、彼の視線は常に異様なまでに鋭利だった。兄弟間の歪んだ嫌がらせと心理戦を描いたあの刺激作から、介護という普遍的な社会課題へと視野を広げつつも、根底にある「生きることの不条理」を描く執念は変わらない。純文学という枠組みの中で、これほど肉体と金銭の生々しさを描き切れる書き手は極めて貴重だ。