スタジオジブリのアトリエが同じ小金井市内に位置することから、宮崎駿監督は江戸東京たてもの園の設立準備段階から深く関わってきました。同園の公式シンボルキャラクターである緑色の愛らしい虫「えどまる」は、宮崎監督自身がデザインを手がけたものです。制作スタッフが日常的に園内を散策し、建物の木造構造や生活の痕跡をスケッチしていた逸話は、公式インタビューや関係者の証言でも度々語られています。
なかでも東ゾーンの下町中通りに佇む文具店「武居三省堂(たけいさんしょうどう)」は、スタジオジブリファンにとって決定的な聖地といえます。明治初期に創業した文具店の店内に入ると、壁一面を埋め尽くす無数の引き出しが目に飛び込んできます。これは『千と千尋の神隠し』で薬湯の調合を行うキャラクター「釜爺(かまじい)」の部屋に並ぶ薬箪笥の直接的な視覚モデルとなった構造です。
また、同通りに威風堂々と構える銭湯「子宝湯(こだからゆ)」の豪華な宮造り(みやづくり)破風や折上格天井、フロントに掲げられた富士山のペンキ絵は、作中の舞台「油屋(あぶらや)」の壮麗な建築ディテールに色濃く投影されています。さらに広場に静態保存されている黄色と赤の「都電7500形」は、千尋とカオナシが銭婆の家へ向かう際に乗車した水上を走る電車の車内レイアウトや座席シートの質感を想起させます。