乱歩に関してネット上やライト層の間で最も根強い誤解は、「怪人二十面相を書いた、昭和の子ども向け冒険作家」というイメージです。テレビアニメや児童書の印象が強いため、本格文学としての評価を知らない層が一定数存在します。
実態はその対極にあります。乱歩の本質は、大正デモクラシーの爛熟期に花開いた「エログロナンセンス」の旗手であり、西欧の精神分析学やアブノーマル・サイコロジーを貪欲に取り入れた心理サスペンスの先駆者でした。
戦時中は内閣情報局による過酷な出版統制と検閲に晒され、『芋虫』をはじめとする多くの作品が発禁処分を受けました。筆を折らざるを得なかった乱歩が戦後、子どもの健全な冒険心を育むために全力を注いだのが少年探偵団シリーズだったという歴史的背景があります。大人向けの耽美・暗黒小説と、少年向けの冒険活劇――この両極端な振れ幅こそが、乱歩という巨人の真のスケールなのです。
【プロの結論】おすすめできる人・慎重になるべき人の判断基準
乱歩の書籍を購入する前に、自身の嗜好とマッチしているかを確認するための判断基準を提示します。
▼今すぐ読むべき人:
- 人間のドロドロとした執念、倒錯した心理描写にゾクゾクする人
- 大正・昭和初期のレトロでデカダンな空気感、ゴシック調の雰囲気が好きな人
- 横溝正史、綾辻行人、京極夏彦などの近代・現代本格ミステリーのルーツを辿りたい人
▼慎重に作品を選ぶべき人:
- 身体欠損や異常性愛などの描写に強い生理的嫌悪感を抱く人(※『孤島の鬼』『芋虫』は避けて『心理試験』『D坂の殺人事件』などの論理パズル短編から入るのが安全)
- 現代的な警察捜査のリアリティや科学捜査(DNA鑑定など)を重視する人