呼び方をめぐる議論は、単なる言葉の正誤にとどまらず、日本社会が引きずってきたジェンダー規範そのものをあぶり出す。社会学者の上野千鶴子氏は長年、日本の家族制度や家父長制的な構造が言語表現にどのように影を落としているかを論じてきた。
「嫁」という漢字が「女」に「家」と書くことからも分かる通り、かつての家制度において女性は「夫の家に入る存在」として位置づけられていた。「家内」や「主人」といった対になる言葉も同様の構造を持つ。税制上の「配偶者控除」や企業の家族手当といった社会システムが、長らく「外で働く夫と家を守る妻」という固定的な役割分担を後押ししてきた歴史とも無縁ではない。
共働き世帯が専業主婦世帯を大幅に上回る現在、対等なパートナーシップを築いているカップルほど、従属的なニュアンスを帯びた呼称に強烈な居心地の悪さを感じるのは至極当然の帰結といえる。