この前代未聞の象ブームを巻き起こした最大の当事者が、8代将軍徳川吉宗である。享保の改革を牽引した実用主義者として知られる吉宗だが、その知的好奇心は国内にとどまらなかった。海外の学術や科学技術に強い関心を寄せていた彼が、自ら幕府のネットワークを動かして手に入れようとしたのが享保の象だった。
吉宗の姿勢は単なる珍獣鑑賞の域を超えていた。象の体長や体重の測定、食事の好み、さらには病気に罹った際の処方箋に至るまで、詳細なレポートの提出を命じた。江戸城の庭で象と対面した吉宗は、その圧倒的なスケールと生態に目を輝かせたという。実証的な観察を重んじた吉宗にとって、異国の巨獣はまさに好奇心と探求心を極限まで刺激する最高の教材だったのだ。